行動変容:ヘルスケア広告の場合
ヘルスケア分野のキャンペーンを見たことがありますか?近年だけでも、こういったキャンペーンがありました。中には見たことがある人もいるんじゃないでしょうか。
・高コレステロール血症(脂質異常症)に注意を促すもの
・喫煙者に禁煙を促すもの
・脱毛症の患者に向けたもの
・シワ取りに関するもの
・逆流性食道炎について解説するもの
これらのキャンペーンは、病気やある種の状態について解説し、病院やクリニックでの受診を促すというのが、基本的な構造です。僕は、こういうキャンペーンにいくつか関わってきました。
これらのキャンペーンは、いろいろな切り方で分類することができますが、前の記事http://reo01.net/2015/10/23/post-1060/で言う行動変容という観点でざっくり分けると、
・自覚症状があって困っているか
・自覚症状がないか
の2種類に分けることができます。前者のキャンペーンはそれほど難しくありません。抜け毛でもシワでも、困っている人に解決策があることを提案すればいいので。
問題は後者の方です。自覚症状がなく、特に困っているとも思っていない人に、目を向けてもらわないといけないわけですからね。ここで、行動変容をどうやって起こすかをよく考える必要があります。
・もし◯◯しないと、◯◯なことになってしまいます=恐怖訴求
・◯◯すればこんなにいいことがあるかも=ベネフィット訴求
・もし◯◯しておけば、◯◯にならないですむ=恐怖訴求とベネフィット訴求の中間
などのように、僕たち広告会社はアプローチを考えます。僕が以前担当した高血圧のキャンペーンでは、僕自身がキャンペーンのコンセプトを考えました。高血圧の場合は、よほど高値でないかぎり、自覚症状がなく困っていません。でも、放っておけば心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高いという状態です。
キャンペーンのターゲットは、血圧が高めの40-45歳の男性に決められました。彼らに恐怖訴求をしても、仕事で忙しい世代ですから、見て見ぬ振りをされるに決まっています。
一方、ちゃんと血圧管理すれば、健康な老後を送れるというベネフィットを伝えても、がんなど他の病気になる可能性はあるわけですし、そもそも僕たち人間は、「自分だけは大丈夫」という根拠のない希望を持って生きている生き物ですから、これもダメです。
考えた末、血圧の目標値を明確に示し、その数字に向けて挑戦してほしいというメッセージにしました。男性はもともとプライドが高く、強制されるのを嫌います。また男性は、女性に比べて数字が好きな傾向があります。そして、働き盛りの男性は、何らかの数値目標を追う使命を負っていることが多いです。
これらを考え合わせて、どのくらいの値が適正で、その数字を目指して挑戦してもらうことをキャンペーンコンセプトにしました。これは、人間の自尊心に訴えるキャンペーンでしたね。
結果として、このキャンペーンはごく短期間のものでしたが、NHKや民放各局のニュース、ネットでもいろいろ取り上げられましたし、クリエイティブのアワードをいくつも獲ることができました。僕たち広告の人間は、広告の効果を肌で実感しにくい宿命があります。でも、どこかの誰かがこの時のキャンペーンのことを頭の片隅で覚えていて、血圧に気をつけて命を守れたら幸せだなと思います。