人の行動変容について。恐怖訴求で動かすのか、それともほめるべきか?
人に何かをしてもらいたい時に、恐怖心を掻き立てて動かすのと、おだてる、またはほめて動かすのとどっちが有効か、というのは議論の尽きないテーマです。
たとえば、自己啓発本の古典「人を動かす」で、デール・カーネギーは後者の立場をとりました。人に、無理やりに何かをさせようとしてもうまくいかないと。
世界一の投資家、ウォーレン・バフェットは、デール・カーネギーを尊敬しており、その考えをビジネスに取り入れているので、人を動かす秘訣は、長所を見つけてほめることだと言っています。
自己啓発本の多くが、カーネギーと同じ考えに立っているようです。恐怖心に訴えかけるやり方はうまくいかない、と。
僕はそう単純じゃないと考えています。
高度に組織された集団といえば、軍隊です。軍隊の特徴は、縦割り、上意下達、上官の命令に絶対服従などが挙げられます。
軍隊で、部下を動かすために上官が部下をほめたりおだてるなんて聞いたことがありません(笑)
現代最高の企業価値を持つアップルも、ある意味で恐怖心によって駆動されている組織だと思います。もし、何かの業務命令をできない、もしくはやりたくないなどと言えば会社を去るしかない、という種の。ブランドとしてはフレンドリーですが、企業体としては、けっこう軍隊的ではないかと思います。
松井博著。アスキー出版刊。
アップルで働いていた松井さんのこの本で、印象的な文章があります。アップルは組織構造がシンプルで、トップが右を向けと言えば、魚の群れが一気に向きを変えるみたいに一気に全社員が右を向いて行動する、というくだりです。以前はスティーブ・ジョブズ、今はティム・クックが方針を決定すると、フルスピードで実現に向けて動き出すのに違いありません。松井さんは、ジョブズが復帰してネクストの幹部がそれまでの幹部から入れ替わった途端、仕事を「やらされている感」が強くなったと述べています。
問答無用、歯向かうヤツは叩き出される、と。
こちらの記事で書いたように、http://reo01.net/2015/10/16/post-571/アップルの基本的な哲学がシンプルさの追求なら、アップルを動かしているのはある種の恐怖政治だと思います。それはたぶん、ジョブズのDNAなんでしょうね。
いずれにせよ、高度に組織されて機敏な行動で敵に勝利する軍隊と、ジョブズの死後も、驚異的な成長を続けるアップルが、規律や強迫観念、上意下達の文化で動いていることはどこか象徴的です。
また、デール・カーネギーを信奉するウォーレン・バフェットの会社が、世界最高の業績を誇っていることも事実です。
これはいったいどういうことか。
これは僕の意見ですが、人間が同意できる大義が掲げられている場合は、ある種の恐怖訴求や強迫観念が有効になる。時には異常な効果を発揮する。その集団は、同じ信念を共有している。
一方、投資のような数字ドリブンのビジネスの場合は、数字そのものが達成すべきゴールになるので、個人個人の自尊心を最大限に尊重しないとうまくいかないんだと考えています。
おそらく、ある行動の出発点である目的に、人が完全に同意できるかどうかがどちらのアプローチが有効かの分かれ目になるんでしょうね。
やはり「なぜという大義」が重要なんだ、という話でした。