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Think different.を実践する天才カーデザイナーの話

      2015/11/05

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僕が好きなカーデザイナーに、ゴードン・マーレイという人がいます。カーデザインの世界には、巨匠と呼ばれる人が何人もいます。フェラーリのデザインを長年手がけて、世界一美しいスポーツカーを生んだセルジオ・ピニンファリーナとか、合理的で、フォルクスワーゲン・ゴルフなどのベストセラーカーを何台もデザインしたジウジアーロとか。日本人では、ピニンファリーナで働き、フェラーリのチーフデザインディレクターとなった奥山清行さんもいます。

ゴードン・マーレイは、そうした市販車のデザイナーとは異なり、レーシングカーのデザインを手がけてきたデザイナーです。僕が彼を好きなのは、その大胆な考え方と、そこから生み出される独創的なアイデアにあります。

F1のブラバムというチームのデザイナーだった彼は、1979年にBT46Bという名のマシンをデザインしました。レーシングカーというのは、直線のスピードはもちろん、コーナー(カーブですね)をどれだけ速いスピードで曲がれるかで、ラップタイムが大きく変わります。

そして、マシンを外側に押し出そうとする遠心力に逆らうために、車体を地面に押し付ける力(ダウンフォースといいます)を最大限に引き出そうとします。レーシングカーが大きなウイング(羽根のことです)を付けているのはそのためなんです。

そして、車体の下と路面の間を流れる空気が大きな問題です。ここに空気がたまり、流速が高くなると、車体を浮き上がらせる力=揚力が発生します。これはすばやくコーナーを曲がるためには具合が悪いわけです。

そこでマーレイは、「マシンの下を流れる空気を、強制的に吸い出しちゃったらいいんじゃないか?」と考えます。そして、F1マシンの後部に大きなファンを取り付け、車体の下面の空気を吸い出すように設計しました。これが実際のデザインです。

BT46B

秘密裡にテストを重ねたブラバムチームは、1979年のスウェーデングランプリにこのマシンを登場させます。結果はどうだったか?

結果は、2位に何十秒も差をつける圧倒的な勝利でした。常識にとらわれない革新的なアイデアでデビューウインを飾ったわけです。BT46Bは「ファン・カー」と呼ばれるようになります。

しかし、このマシンの圧倒的な速さを恐れた他のチームから、「マシン下面の空気を強制的に吸い上げて、後方に排出する際に、路面の砂利やゴミが後ろを走るマシンに当たって危険だ」とクレームがつきます。多分に政治的な動きもあり、このシステムは禁止されてしまいます。

こうしてファン・カーはこの1戦限りで姿を消します。勝率100%の珍しい記録とともに。

マーレイは、ブラバムチームのあと、マクラーレンというチームに移籍します。ここで彼は、ブラバム時代の終わりに試していた新しいコンセプトのマシンを設計します。

それは「フラットフィッシュ(ひらめ)デザイン」というものでした。できるだけ空気抵抗を減らし、コーナーを早く曲がる上で問題となるマシンの重心を下げるために、ドライバーを寝そべるくらい低く座らせて、マシン全体を低く低く設計したのです。エンジンや、各部のパーツはそのためにデザインし直されました。これが実際のマシンです。

Ayrton Senna (BR), Honda Marlboro McLaren MP4/4.. His first race for Mclaren which he was disqualified from due to changing his car after the parade lap due to gearbox problems.. Brazilian Grand Prix, 03/04/1988, Rio de Janeiro, Brazil.

MP4/4という名のこのマシンは、1988年のF1シーズンに投入されます。アイルトン・セナと、アラン・プロストという二人の天才ドライバーが操り、実に16戦15勝という記録を打ち立てます。この記録は2015年現在でも破られていません。マーレイ自身は、「このマシンは、(ブラバム時代の)BT55と同じコンセプトで、目新しいものは何もないよ」と言いますが、F1の歴史に名を残すマシンとなりました。

マーレイは、F1マシンのデザインから引退すると、今度は市販車のデザインに取り掛かります。彼が目指したのは、「地球上で最高のロードカーを作る」こと。

そこでも彼は、異次元の発想をします。たった7人からなるデザインチームを集めると、彼は10時間にもわたって、自分が理想とする車がどんなものであるかを説明します。シートに座り、ステアリングを握るとどんな感情になるか、その車を所有するというのは、オーナーにとってどんな体験になるのか。

どこかで聞いた言葉じゃないですか?「感情」と「体験」。そう、アップルが大切にしているものと同じです。マーレイはこうも言います。「私が特にこだわったのは、手で触れた時の感覚だ。この車のドライバーには、本当に特別な気持ちになってもらいたかったからね」

そして、iPodを開発した時にジョブズたちが、世に出回っているMP3プレイヤーを使ってみたように、俗にスーパースポーツと呼ばれるスポーツカーをいろいろ乗り比べます。

マーレイたちは「どれもひどい」と判断します。ジョブズなら、「どれもクソだ」と言うところです(笑)見た目は派手派手しくても、実用性がまるでない。視界が悪く、ガレージに入れるためにバックするのも容易じゃない。トップエンドの性能を重視しすぎて、日常の速度域での乗りやすさが犠牲になっている。もっと軽量にできるのに、無駄な設計をして重たくなっている。

そして、開発のスタート時に徹底的にマーレイにコンセプトを説明されたチームは、二度とマーレイに同じ質問をすることなく設計作業に入ります。まずマーレイは、ドライバーの着座位置から考え直します。「ドライバーの体重が70キロとして、左右どちらかに偏って座るのはナンセンスではないか。重量物は車体の中心にある方がいい」そうして、ドライバーは車の中央に座ることになり、パッセンジャーは、その左右少し後ろに振り分けて座るというセンターレイアウトになりました。上から見ると、3つの矢のようなレイアウトです。

車体は、F1と同様に、カーボンコンポジットという極めて強固な素材で作られ、乗員は強いフレームで守られます。これもF1と同様に、エンジン自体が車体の構造体となり、剛性を高めています。

レーシングカーをずっと設計してきたマーレイは、車というものが軽量であればあるほどいいと骨の髄までわかっていました。加速にも減速にも、そして燃費にも。そのため、車体のすべてにわたって、軽量設計を徹底しました。時には、この世の中になかったサイズのボルトを専用に作らせるほどに。

性能に大きく影響する空気力学も徹底的に考え抜かれました。車体の上面と下面の空気の流れは、エンジンの冷却に使われ、ブレーキを適切な温度に保つのに使われ、もちろん高速走行時のダウンフォースも最適化されました。あの「ファン・カー」と同じく、車体にはファンが取り付けられ、車体下面の空気を吸い出すようになっています。

乗員に快適なドライブをもたらすため、カーオーディオは省かれませんでしたが、担当した日本のケンウッドは、マーレイから実現困難なほどの性能を要求されます。少しでも軽くするため、ケーブルは最短距離で取り回され、ムダが全くありません。ちなみに、車載工具も軽量なチタン製です。

一方、週末の小旅行にも使いやすいように、乗員のスペースのそれぞれ外側に、トランクスペースが設けられ、その形状にぴったり合うように、専用のバッグまでセットされました。

この車は、「マクラーレンF1」と名付けられ、1992年のモナコグランプリのパーティで発表されます。マーレイらしいアイデアが盛り込まれたこの車に、世界が驚嘆します。実際のマクラーレンF1の写真がこちらです。

MclarenF1front

MclarenF1in

世界最高のレーシングカーデザイナーが、最高のロードカーを作ろうと、小さなデザインチームを率いてありったけのノウハウを注ぎ込んだマクラーレンF1。僕は、お金がいくらでも使えるとしたら、この車に乗りたいと思います。そういう車は、あともう1台ありますが、その話はまた書きたいと思います。

このマクラーレンF1には、さらに驚くべき伝説を生むことになります。止まらないほど長くなってきたので、一度区切ります(笑)

 

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